マーラーと同時期を生きた画家グスタフ・クリムト。彼の油彩画25点が会する過去最大規模の「クリムト展 ウィーンと日本 1900」が東京都美術館で催されている。
煌くクリムトの女性たち
クリムトが生きた19世紀末ウィーンは退廃と肥大に満ちた、正に世紀末という陶酔感溢れる形容が相応しい時代だ。マーラーやシュトラウス、レーガーらのように極限まで調性音楽を膨張させた作曲家たちの作品を聴けばその末期的な時代感を感じるだろう。
クリムトの絵画作品もそれらのように観るものの琴線に触れることは間違いない。クリムトの代名詞である黄金と女性の世界は、その絢爛たるまばゆさと女の恍惚で官能とした表情に当時のウィーンの世界を感じ取ることができる。
今展覧会で展覧されている『ユディトⅠ』『ヌーダ・ヴェリタス』の女性の表情をぜひ観てほしい。艶めかしく、美しい。青い顔色は死を連想させる。エクスタシーの瞬間の生と死の境にいるかのような煽情的な表情だ。
クリムトの作中に登場するモデルは、彼と男女の関係にあったのがほとんどだ。アトリエには15人が寝泊まりし、独身のクリムトは少なくとも14人の子供がいたという。その私的な関係があったからこそ、この女性像が描けたのだろう。それは荒木経惟やテリー・リチャードソンなど現代の私小説的写真家とリンクする。
「女を描くことに興味がある」と語るクリムトの女性への興味は、生命の循環へと行きつく。今回初来日となる『女の三世代』は女性を通して人間の生を描いた傑作だ。女を愛したクリムトだからこそ描き得た作品だろう。幼女から老婆へと三代の女性が明暗のある背景にくっきりと浮かぶ。煌びやかな幾何学模様は生の称賛、暗い闇は終末となる死かのようだ。
めくるめくベートーヴェンの世界
クリムトはウィーン美術家協会に所属していたが、保守的な同会とは袂を分かち、新たなウィーン美術の発信を目的にウィーン分離派を設立。世界の美術の紹介など先進的な活動を行った(その後クリムトは同会をも脱会する)。
1902年第14回ウィーン分離派展はマックス・クリンガー作ベートーヴェン像を中心としたこの楽聖をテーマとした展示だった。クリムトはベートーヴェンの傑作交響曲第9番を絵画化した『ベートーヴェン・フリーズ』を制作。「クリムト展 ウィーンと日本 1900」ではその精巧な原寸大レプリカが観られる。
この3面の壁画は空間で訴える総合芸術と呼ぶべき作品。「幸福への憧れ」(左壁)、「敵対する勢力」(中央)、「歓喜の歌」(右壁)には不安と愛へと昇華されている叙事詩が描かれる。金を多用し、作品が連なっていく様子はまるで日本の絵巻物のようだ。一説には「幸福への憧れ」の騎士の顔がマーラーをモデルにしていると言われている。
ウィーン楽友協会を想起させるクリムトの黄金の世界は華やかであり、けばけばしくあり、退廃的だ。マーラーの甘い旋律、ベルクの不穏な『ピアノソナタ』、シェーンベルクの絹のように繊細に美しい『浄夜』など官能的な曲が似合うのは間違いない。会場の音声ガイドでは印象派の曲も流れる。音楽も共に楽しんでほしい。
場所/東京都美術館 企画展示室
期間/2019年4月23日(火)~7月10日(水)
時間/9:30~17:30(金曜は20:00まで)※入室は閉室の30分前まで
休室日/5月7日(火)、20日(月)、27日(月)、6月3日(月)、17日(月)、7月1日(月)
観覧料/一般¥1,600、学生・専門学生¥1,300、高校生¥800、65歳以上¥1,000
住所/東京都台東区上野公園8-36
TEL:03-5777-8600
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