4月11日東京文化会館小ホールでのイゴール・レヴィットのリサイタル。プログラムはバッハのゴルトベルク変奏曲のみという、潔さを感じさせる構成だ。ちなみに2日後の13日にはベートーヴェンのディアベリ変奏曲、ジェフスキの不屈の民変奏曲の公演を行った。
ゴルトベルクはすべて繰り返しあり。インターバルなしノンストップの90分の対位法の世界が繰り広げられた。映画『羊たちの沈黙』でも奏でられる有名な主題のアリアは、この曲が不眠症の伯爵のために書かれた曲だということを思い出させるように美しい旋律。ゆったりとしたテンポで繰り返された後、30の変奏が始まる。
変奏は3つ一塊の構成で各最後はカノン。そのカノンが一度ずつ音程を上げて変奏されていく。レヴィットはメリハリの利いた演奏で分かりやすくゴルトベルクを紐解いていく。
どの変奏もリピート時の演奏は装飾音やディナーミクで変化を付ける。急速な部分はより速く、緩やかな部分は優美にたゆたう。細かいパッセージでは響きが不明瞭になり声部の弾き分けがあいまいになる部分が時折あったのが少し残念だったが、この長大な千夜一夜物語のような構造物をフルリピートで弾いたことに称賛を与えたい。
ゴルトベルクというとグレン・グールドを思い出さずにはいられない。レヴィットの音の作りやフルリピートしているが演奏の構成はかなりグールドからの影響を感じさせるものだ。現代のピアニストはバッハを弾く際どうしてもグールドという壁が立ちはだかる。文脈でバッハを奏でるしかないのではなかろうか。その観点から13日の2変奏曲のプログラムを聴いておくべきだった。
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