ピアニスト反田恭平が、同世代と発信する新レーベル「NOVA Record」設立を発表
独立し、NEXUS社を創業したピアニスト反田恭平がプレイガイド・イープラスとクラシック音楽レーベル「NOVA Record」を設立した。反田のプロデュースにより企画・制作・販売・配信を行う共同新事業だ。
イープラスの橋本行秀代表取締役会長は「プレイガイドが興行実施、アーティストプロモーションなどチケット流通事業を超えるビジネスを行っていく時代になると考えていた。反田さんがやろうとしていることがこの考えに近く、彼の熱意にご一緒させてもらった」と話す。
同レーベルはまず、反田が同世代のトップアーティストたちと結成したMLMナショナル管弦楽団(以下、MLM)のメンバーから10演奏家各人のミニアルバムを発売する。20分程度の内容で、弦・管楽器がメインとなるレアな曲が収録される。取り扱いはMLM演奏会場限定。ライブグッズ販売が隆盛を極めているポップミュージックのビジネスに近い。加えて、2019年7月24日にサントリーホールで開催される反田とMLMのライブ音源をネット配信する予定。
先日都内で行われた記者会見では、今後の事業展開として、新たに3つのプランが公表された。一つは、第81回日本音楽コンクールで、反田と共に1位を分かち合った務川慧悟との2台ピアノのアルバムをリリース。今年5月にはこの決定を予期させるかのごとく、先だってデュオリサイタルを3公演行った。務川は、反田のNEXUS社に(本人以外で)最初のマネージメントアーティストとして所属するという。
二つ目は、ハノンやツェルニー、モシュコフスキなどの教育用練習曲の音源をリリース。折々、将来音楽院を開校したいと語り、未来を担う次代の育成に意欲を見せる反田らしい試みだ。最後に、セルフプロデュースによるソロアルバムのリリースを公約した。以降については、スマートフォンを意識したサービスを模索していることを匂わせた。
反田は「音楽学校を設立する夢への布石。経営を学び、コンサートの裏側も経験したい。アーティストが増えて、NOVA Recordからインターナショナルに移れるようなアーティストを輩出できれば」と抱負を話す。会見中、次代の育成とクラシック音楽の普及について口にしていた。
しばしばその生い立ちや活動が、クラシック界で異端とみなされる反田。彼らしい独立からの展開だろう。とはいえ決してドラスティックな手段をとらないのも特徴。今回のレーベル設立も既存ビジネスの範疇である印象は拭えない。
反田ファンであれば応援の気持ちと共に、この“スタートアップ”事業がピアニストとして大成する妨げになるのでは?という不安もあろう。現在ショパン音楽大学に留学中、年齢的に最後のチャンスとなる来年のショパンコンクールを視野に入れているものと、誰もが想像していたに違いない。1ファンとしては、新事業リリースよりそのエントリーを宣言してくれることを期待していた。
しかし、この肩肘張らず、軽快に行動していく“ノリ”こそが、反田世代特有のリアリティであり、強みではないか。デジタル・ソーシャルネイティブである彼ら世代の共感が基盤となる今回のレーベル設立が、音楽エリートだけのものにとどまることなく、クラシック音楽界をも超えるNOVA(ラテン語で新星の意)となるか、期待を込めて注視したい。
写真/左から橋本行秀、反田恭平、務川慧悟(撮影:池上夢貢)
文/伊藤祐実
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