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Article
2019.03.24

ショパンとブラームスの悲しみと温かさ

Concert review クリスチャン・ツィメルマン 3月2日兵庫県立芸術文化センター

2019年3月2日、兵庫県立芸術文化センター大ホールでのクリスチャン・ツィメルマンのリサイタル。前半プログラムはショパンのマズルカ14番から17番まで連番で始まる。ぽつぽつと一人語りのように、寂寥感をまとい弾き始めた。

 

マズルカは、ところどころこの民族舞曲特有のリズムとアクセント、そして装飾音が束の間の陽だまりのように色を添える。17番まで聞き終えると、初めから同一の作品をしばらく聞いていたような錯覚におそわれた。続いてはブラームスのピアノソナタ2番。周到で隅々まで神経の行きわたった演奏ながら、精神的な若々しさ・瑞々しさが溢れ出てくるものだった。

 

後半のプログラムはショパンのスケルツォ全曲だ。ツィメルマンはこれまで何度かこの4曲を取り上げてきたが(30年前には2番の映像を残している)、今回も同様のアプローチを踏襲していたと言えようか。それでもなお格別の感慨を残すものであった。

 

例えば2番の中間部だ。やや性急な印象を抱かせるような冒頭であったが、中間部に差し掛かるとこの印象は完全に払拭され、空間を裂くようにとてつもなく静謐な音楽がもたらされた。ゆっくりとゆっくりと悲しみが深まっていき、大きな渦を描くように冒頭を再現し終結した。いずれのスケルツォも性格的作品らしく、自在な演奏に圧倒されるものであった。奏者自身が音楽を心から楽しんでいるのびのびとした印象を受ける。


プログラムを終えた後、絶えない喝采に応えてアンコール曲としてブラームスのバラード1、2、4番が演奏された。音と音の間に満ちる響きが豊かな放物線を描くようにホール全体を満たす。最後の最後までツィメルマンが構築する残響を心ゆくまで堪能すると、全プログラムを通じてほのかな温かみが差していたことにふと気づかされたのであった。

 

文/亜歩邪到来夫

プログラム:
ショパン:マズルカ 第14番 ト短調 op.24-1
ショパン:マズルカ 第15番 ハ長調 op.24-2
ショパン:マズルカ 第16番 変イ長調 op.24-3
ショパン:マズルカ 第17番 変ロ短調 op.24-4
ブラームス:ピアノ・ソナタ 第2番 op.2
休憩
ショパン:スケルツォ 第1番 ロ短調 op.20
ショパン:スケルツォ 第2番 変ロ短調 op.31
ショパン:スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 op.39
ショパン:スケルツォ 第4番 ホ長調 op.54

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