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2022.05.03

頭でなく五感で聴く松本和将の新譜『夜のガスパール』

ピアニスト松本和将によるニューアルバム『夜のガスパール』が発売された。タイトル通り、ラヴェルのピアノ曲をメインに、ラモー、フランクとフランス音楽が編まれたプログラムだ。

松本氏は、「予備情報なしで、まずは聴いてほしい」と話す。

というのも、クラシック音楽のCDの特徴でもあり、楽しみでもあるライナーノーツが今回書かれていない。付属するブックレットはなんと〈夜のガスパール〉をビジュアル化した写真集になっている。異例とも言えるこの仕様にはどういった意図が込められているのだろうか?

「極力文字情報なしで、どうしても入れないといけないデータだけ記載しています。今までライナーノーツには、楽曲の解説から自分の想いまでいろいろ書いていたんですが、マンネリを感じていました。ラヴェルもフランクもいくらでも書くことはありますが、頭で理解してから聴いてほしくなかったんです。ラヴェルは絵を鑑賞するように、五感を全部使って聞いてほしいと思って、ビジュアルのみにしました」

 

 

最低限の文字情報も凝っている。インデックスはただ曲名を羅列するのではなく、グラフィカルに配置。そこには収録時間も無い。また夜のガスパールの詩の気になったワードを黒字で記載し、残ったテキストを白字で重ねてコラージュしたというページも拘りだ。

「クラシックのジャケットや冊子は打ち合わせや会場のリハーサル風景、もしくは絵画が多くてつまらないですよね。本当に曲の内容と一体化したものをつくりたいという想いが前からあってデザイナーと話してこれに至りました。デザイナーが写真も撮ってくれたんですが、彼は私のデビューアルバムをデザインしてくれた人で20年以上の付き合いです。幸いなことにクラシック音楽に詳しくなく、ありがちな構成の冊子にならなかったのが良かったです」

 

 

写真は、静岡の伊東で撮影。どことなくオンディーヌ、絞首台、スカルボを感じさせる退廃とダークな雰囲気が感興を促す。暗いが美しい夜のガスパールの世界を見事に表現している。

ガスパールと言えば超絶技巧ピアノ曲の代名詞。しかも今回の録音は2019年11月のライブレコーディングだ。

「ガスパールの演奏は大変なんですけど、ただ弾いただけでは意味がありません。私は、当たり前と思われている弾き方に対して、疑問を持つことがよくあります。例えばオンディーヌのクライマックスの部分を結構遅くして弾く人が多いんです。しかしこれでは以降のフレーズとスムーズにつながらずストーリーが完結しません。なので、楽譜の表示記号通り少し遅くなる程度で弾いています。
ピアニストは、作曲家がつくった過程を反対からたどっていく作業です。作曲家はイメージやコンセプトから作る。我々は出来上がったものを楽譜から読んで、骨組みをたどっていって、最後にそのコンセプトにたどりつく。この骨組みを解き明かすところまでで終わっている人が多い。私はどういう想いで作曲家が作ったのかまで解き明かしたい。なので詳しく曲を深掘ります。
掘ると世界が広がる作曲家が面白いんですよね。ラヴェルの他にはベートーヴェン、ブラームス、スクリャービンがいます。彼らは全部びっちり計算づくで書いているから面白い。とても構築的ですね」

 

『夜のガスパール』香水セット

録音は、美しくも悲しいオンディーヌ、緊張感あふれる絞首台、鬼気迫ったスカルボ。存分に松本の技巧と感性を発揮した演奏だ。フランクも荘厳で大伽藍が立ち現れるようだ。そこにフッと存在感を見せる典雅なラモーが心地良い。

「ラモーもラヴェルも、とても広い空間があって、その世界を肌に感じながら、音に落とし込んでいる感じがします。曲はすごく緻密で大きいものではないんですけど、広い景色の空気感を感じてほしいですね」

まずは何も考えず聴いてもらいたい。その後冊子を見ながら聴くとより深くダークな世界に没入できるだろう。耳と目を楽しませるラヴェルの演奏を楽しもう。そこには香りも良い。

 

【夜のガスパール】
ラヴェル:水の戯れ、夜のガスパール、亡き王女のためのパヴァーヌ
フランク:プレリュード、コラール、フーガ
ラモー:ガヴォットと6つのドゥーブル

松本和将(ピアノ)
録音時期:2019年11月24日
録音場所:東京文化会館小ホール
レーベル:Octavia Exton
価格:3300円(税込)

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