現代音楽家でありミニマルミュージックの旗手である英作曲家マイケル・ナイマン。映画『ピアノレッスン』を始めとして多くの映画音楽を手掛け活躍している。彼が盟友であった同じくイギリスが生んだ天才ファッションデザイナー、リー・アレキサンダー・マックイーンの短い生涯を綴ったドキュメンタリー『マックイーン:モードの反逆児』が上映中だ。
マックイーンは1969年に生まれ、1992年に自身の名を冠したブランドをスタート。自身の内面が全面に出た「アレキサンダー・マックイーン」のコレクションは服を媒体にした芸術だ。スコットランドの歴史、切り裂きジャックなどをテーマに掲げ、作り出されるのは見る者の心を揺さぶる衝撃的な洋服たち。ダークで不穏な世界に煌びやかなファンタジーを乗せたテイストは狂気の一言が似合う。しかもテクニックは完璧でリストのような超絶技巧で高度に仕立てられる。しかし、身を削って作る精神的なプレッシャー、そして相次いだ近親者の死により2010年突然の自殺。40年の生涯に幕を下ろした。
シアトリカルで見応えあるコレクションショーは舞台美術としても面白いもの。遺作となったビザンチン美術をテーマとしたコレクションは金襴の刺繍や宗教画があしらわれ、絢爛豪華な宮廷を想起させる。そこからはヴィヴァルディやヘンデルの音楽が聞こえてくる。
マックイーンは夜アドレナリンが放出されると言い、夜な夜なピアノ独奏曲を流しながらデザインと仕立てを行なっていたと映像内で語られる。彼が好んだ音楽家の1人がナイマンだ。劇中では管弦楽、ピアノソロでマックイーンの栄光や精神不安を描写する。シンプルなピアノ曲は、スターであっても孤独にさいなまれた彼の心情を語るかのようだ。
耽美の極致であった天才デザイナーの伝記映画。美術的観点からも面白い。
『マックイーン:モードの反逆児』
監督:イアン・ボノート
音楽:マイケル・ナイマン
出演:アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォードほか
配給:キノフィルムズ
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